江戸時代の下積みの人々の日常生活の哀愁をユーモラスで情味の細やかな文章で描いた山本周五郎の三つの短編小説によるオムニバス映画である。三篇とも主人公を演じているのは錦之助。いつもチャンバラのヒーローをやっていた彼が、立ち回り抜きで人のいい善人な人物をユーモラスに温かく演じることも出来ることを示している。
監督は田坂具隆。いつもながらスローテンポのおっとりしたタッチで気持ちのいい作品に仕上げている。
第一話の「ひやめし物語」は、ある藩の下級の武家の四男坊の話である。四男坊だから、どこか武家の家に婿入りでもするか、さもなければ学問か武芸で特別人に秀でて主家に召し抱えられるかしなければ、一生嫁も貰えず兄の家の厄介者として冷飯喰いに甘んじなければならないかもしれない。そういうつらい立場の若者が、しかし、卑屈になってはいかんと自分で自分に言い聞かせるようにして、...
東京都と千葉県の境を流れる江戸川の河口に、貝と海苔と釣場で有名な浦粕集落がある。ある日、「先生」と呼ばれる三文文士がやってきたが、プリプリ張り切った若い女の肢態に眼をうばわれ、当分の居を増さんの家の二階にきめた。楽しい刺戟の中でケッサクをものそうというわけだ。先生は見知らぬ老人から、青べか舟を売りつけられた。ところで先生の観察によれば、ここは他人の女房と寝るぐらいのことは珍しくなく、動物的本能が公然と罷り通っている大変なところである。町にはごったく屋という小料理屋が多い。その中の一軒、「澄川」に威勢のいいおせい、おきん、おかつの三人が働いている。先生の眼を惹いたのはおせいであった。「澄川」の真ン前にみその洋品雑貨店があり、ドラ息子の花嫁は里帰りしたまま戻ってこない。べか舟を先生に売りつけた芳爺、消防署長わに久、天ぷら屋の勘六夫婦などが五郎は不能らしい...
ストーリー
※結末の記載を含むものもあります。
大炊介高央は田宮神剣流道場の嫡男で、秀才の誉れが高かったが、師範代で妹みぎわの許婚者である吉岡進之助を道場で斬殺してからは、常軌を逸した行動がめだった。愛息の狂態を案じた父高茂は思案のあげく学友四人をつけて紀州の田宮家に閉じ込めた。庄屋の瀬木久兵衛や百姓娘うめを斬ったり娘なおを山菱に拉致したりの相かわらずの行状を知った高茂は、心ならずも高央の命を縮めることを決意柾木兵衛を送った。幼友達の兵衛は紀州に出かけて高央の行状を探ると意外にも斬られた男は女ぐせの悪い者ばかりということがわかった。高央乱心の噂は幕府にまで聞え、高央を殺すべく家老の帯刀が紀州にやってい来た。兵衛が山葵に高央を訪れ詰問したところ、高央はショッキングな事実を告白するのだった。高央はかつて吉岡から自分が不義の子であると知らされた。以来高央は...