就職活動で連戦連敗中の大学4年生笠松(かさまつ)ほたるには、ある“天敵”がいる。
小中高も一緒、そして、今も家の近くに住んでいる同級生の鍵谷美晴(かぎやみはる)、そのひとだ。
クラスのもめ事にも正論で返し、さまざまなアクシデントも創意工夫で乗り越える。いつも自分の前でまぶしいスポットライトを浴び続ける存在。そんな幼なじみのキャラで自分を装い、入社試験に臨んだとしたら
「わたしにとってこんな自分だったらいいのには、鍵谷美晴だった」
美晴の個性を自分のものとして偽り、提出したエントリーシートは、なんと通過。どう受け止めたら良いのかわからぬまま、次の面接、次の面接と、笑顔で嘘をつき続けていく。
時は流れ、3年後。無事に内定を得たほたるは、有名大手企業でバリバリと仕事をこなしている。そんなとき、エントリーシートを拝借した相手である美晴本人に街...
青木文(あや)(石田ゆり子)は45歳。6年前、夫が上京中に無差別殺人事件に巻きこまれ、殺されてしまった。事件直後に妊娠が判明した息子も今は5歳。夫と始めた海辺のドライブインを、女手一つで細々と続けている。自分はもう幸せを取り戻すことはできないのだと、乾いた諦めの中に生きてきた文。事件に関わった刑事佐々岡滋(原田泰造)が文と息子を気にかけて足繁く訪ねてくるが、女心はときめかない。そんなある日、店に詰めかけるトラックドライバー達の中に、物静かで端正な雰囲気の男長部瞭司(おさべりょうじ)(井浦新)がいた。耳は聞こえるが口がきけないらしく、筆談用のメモ帳を持ち歩いている。世捨て人のようなその佇まいは、眠っていた文の女心を大きく揺さぶる。瞭司もまた、物憂げな文の姿に心を奪われていく。だが、二人をつないでいたのは、皮肉な運命の糸だった。6年前、エリート弁護...