江戸興行に初めて出演の上方役者中村紫近は、ひいき客の伊予屋の愛妾おりんからの呼び出し状で、その寮を訪れたが、主人甚右衛門に密会の現場を見つけられ、花札の勝負を挑まれる。勝負に負けた者が、日頃警戒の厳重な質屋分銅屋へ忍び込んで、床の間にある南蛮渡りの時計を盗んで来ること。見つかったら盗賊として突き出されてしまうし、万一見つからないときは、おりんを我がものとしてよいという条件であった。花札には仕掛があって、紫近は負けてしまった。約束通り紫近が分銅屋へ忍び込んでみると、主人の彦兵衛はすでに何者かに殺されていた。驚いて逃げ出した紫近は目明したちに追われて、左官屋角蔵の家へ飛び込んで一時を逃れるが、娘のお千世に見つけられ、飛び出して楽屋へ帰って来て、血に汚れた着物を隠すが、それも楽屋番の仁助に見つけられ、目明しの喜三次によって番所へ引き立てられて行った。喜三次...
大阪の焼けのこりの一画に、いつからか上方落語や漫才の芸人たちが集った。「芸人村」と土地の人は呼んだ。長屋の二階の一室に、お千は父の半丸と暮している。父は元漫才師で、今はボテ人形造りに凝っていた。酒と女には目がない。お千はそんな父を針仕事で養っている。底抜けのお人好しである。バンドマンと一度結婚したが、死に別れた。半丸のはからいで、お千は扮装踊りの米太郎と見合いした。その頃、長屋に宗二という男が帰ってきた。彼は半丸の元の弟子で、お千の初恋の人だった。彼は商売を始めるつもりという。彼の店へお千が会いに行くと、店に女がいた。家内だといった。お千はたまらず、駈け去った。女はお妙という置引き専門の強者で、警察の目をごまかすため、強引に入りこんで一芝居していたのだ。宗二も共犯に間違われて警察へ引っぱられた。その間に、何も知らぬお千は米太郎と結婚式を挙げた。今さら...
日光廟の修復を命じられた柳生対馬守は、茶壷「こけ猿の壷」を探し、そこに記された財宝で費用をねん出しようとした。 ところが肝心の壺は対馬守の弟源三郎に持ち出されてしまい、急遽使いが派遣される。 盗賊のお島は遊び人鼓の与吉と共謀して茶壷を盗み、硯売りの少年チョビ安に預けるも持ち出されてしまう。一時はチョビ安の養父丹下左膳の管理下に置かれるが、お島は司馬道場の門弟上村平馬とともに壺を奪い返す。
さて、源三郎には、司馬道場の当主の娘萩乃といういいなずけがいた。一方、高弟子の峰丹波は萩乃に思いを寄せ、ひいては道場を手中に収めようとしていた。 その矢先、丹波は「こけ猿の壷」を目にするも、壷を狙っていた左膳との間でもみ合いとなり、そのすきに蒲生泰軒に壷をとられてしまう。
その後、司馬家の当主十方齋の死によって権力の座に就いた丹波は萩乃を軟禁するも、女中...