昭和13年、夫に先立たれた村上ふじ(松坂慶子)は、生まれつき身体が不自由な息子耕造(筒井道隆)を女手ひとつで育ててきた。ある日、耕造は中学の同級生の紹介で小倉に住む白川病院院長白川慶一郎(蟹江敬三)の蔵書を整理することに。そこで彼は、森鴎外の日記のうち彼が軍医として小倉に赴任していた4年分が紛失していることを知る。4年間の“小倉日記”の空白を埋めるため調査に乗り出した耕造だが、鴎外の死後40年という壁は厚く、調査は挫折しかけていた。やがて、白川病院の看護婦山田てる子(国生さゆり)の情報から鴎外が出入りしていた寺をつきとめる。さらに、鴎外の実弟森潤三郎からの応援の手紙も届き、耕造の仕事は新聞で紹介される。ふじは息子の努力が報われたことを喜ぶが、自分の亡き後のことを考え、耕造が好意を寄せるてる子に結婚の打診をするが断られてしまう。それ以来てる子は...
昭和14年。夫を戦地で失った寺崎かなえ(田中裕子)は、今は東京池上にある実家で母親里子(加藤治子)たちと生活している。かなえの弟庄一郎(勝村政信)は亡父と同じ商工省に入り、末っ子の菊江(田畑智子)はまだ女学生だ。ある日、かなえは津雲浩太郎(石堂淑朗)という初老の男が捨てていった原稿用紙を拾う。従兄弟の修造(萩原聖人)によれば、津雲は元大学講師で左翼の理論的指導者だった。だが、獄中で転向を宣言してからは娘滝子(小泉今日子)と世間の目を逃れるように暮らしているという。気になったかなえが原稿に目を通すと、それは書きかけの童話だった。結末が知りたくなったかなえは津雲の住所を調べて、彼を訪ねる…。
原沢家の長女絹子(田中裕子)が母里子(加藤治子)の看病を口実に実家に戻ってきた。絹子の夫安村は1年前に中国で戦死し、今は義弟公作(鶴見辰吾)との再婚話が持ち上がっている。次女晶子(小泉今日子)は出版社に勤め、末っ子の愛子(林美穂)はまだ女学生だ。家長であるはずの父浩二郎(菅原謙次)は1年半前に出奔したきり音信不通で、一家の生活は浩二郎の弟浩三(藤田敏八)が面倒を見ている。
そんなある日、晶子が女連れの浩二郎を見かけたと絹子に打ち明けた。絹子と晶子は里子に内緒で浩二郎を待ち伏せし、その家を探し出す。突然訪れた二人の娘に驚きの色を隠せない浩二郎。久々に再会し家族の現状を語る娘に、浩二郎は身勝手を詫びるが…。
昭和12年秋。父を早くに亡くし、三姉妹と母だけの結城家に長女祝子(田中裕子)の婚約者川島次郎(小林薫)が訪れる。祝子は婚約してから3年経つが、健康に自信がないことを理由に結婚を延期してきた。医師は全快と太鼓判を押すが、なぜか踏ん切りがつかない。また、三女いさ子(曽根由加)は“自分はよその家の子なのでは”という妄想が強かった。亡き父の指は細かったが「自分の揺りかごをゆすってくれた男の指は日に焼けて太かった」と主張するのだ。
そんなある日、亡き父が面倒をみた元ヤクザの仙造(田村高廣)が1年ぶりに福島から上京することに。母里子(加藤治子)は気のせいか少しはしゃいでいるように見えた…。
釜塚の金右衛門一党の盗賊雲津の弥平次は、上州と越後境の湯治場で、崖下に倒れていた一人の侍を助ける。その若者は何者かに襲われ深い傷を負い、すべての記憶を失っていた。
女房のしまと共に、男を介抱した弥平次は、自分の名から一文字とって「谷川弥太郎」と名づけ、一期一会と別れていく。
数年後、江戸― 首領亡き後、一党の跡目争いに巻きこまれていた弥平次は、ある夜偶然、弥太郎が人を斬る姿を目撃する。
依然として記憶が戻らない弥太郎は、香具師の元締五名の清右衛門に拾われ、仕掛人となっていた。彼の身を案じた弥平次は、清右衛門のもとから助け出そうと決意する。
一方、弥太郎は仕掛けた相手から「笹尾平三郎」という名で呼ばれ、激しく動揺する。 それが自分の名前なのか、自分はいったい何者なのか―
弥平次への恩と清右衛門への義理の狭間に揺れ、苦悩しながらも手を血で染め続ける弥...